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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)954号 判決 1960年3月30日

控訴人 堀江由松

被控訴人 大野太七

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、原判決を取消す。別紙目録記載の土地に対する被控訴人の占有を解いて控訴人の委任する千葉地方裁判所執行吏にこれが保管を命ずる、被控訴人は右土地に立入つてはならない、右土地を控訴人に使用させることができる、執行吏は前項の目的を達するため公示その他適当の処置をとらなければならない、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに疎明の関係は、控訴人訴訟代理人において新たに当審における証人堀江ゆうの証言及び控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴人訴訟代理人において新たに当審における被控訴人本人尋問の結果を援用したほかは、原判決の事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所の事実上並びに法律上の判断は、次のとおり訂正又は変更を加えるほかは、原判決の理由に記載するところと同一であるから、その記載をここに引用する。

一、原判決の理由二枚目表(記録第六十八丁)七行目に「宅地九十五坪三合五勺」とあるのを「宅地九十五坪三合七勺」と訂正する。

二、同二枚目裏二行目から同三枚目表(記録第六十九丁)八行目までの部分を削りその代りに、

「次に調停調書第三項記載の条件の成就の有無について判断するに、控訴人が昭和三十二年九月分から同年十一月分までの地代相当の損害金を同年十一月三十日までに支払をしなかつたことは、控訴人の自認するところである。控訴人は、右損害金については予め被控訴人の代理人である同人の母から支払の猶了を受けており、同年十二月五日その支払をなしたところ、被控訴人は異議なくこれを受領したと主張し、原審証人阿部乙治郎の証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人がその主張の頃右三箇月分の地代相当の損害金四千五百円の支払をなすべくこれを通帳(甲第二号証)と共に被控訴人方に持参し、被控訴人の母である大野とくに交付しとくが一旦これを受領したことが疎明されるけれども、右証人の証言並びに控訴人本人尋問の結果中右損害金につき予め支払の猶予があり被控訴人が控訴人の持参にかかる右金員を異議なく受領したとの控訴人の右主張に副う部分は、後記の疎明に照らして採用しがたく、かえつて原審における証人大野とくの証言並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人又はその母とくが控訴人に対しその主張のような支払猶予の承諾を与えたことはないこと、とくが控訴人から前示金員を受取つたのは被控訴人の不在中のことであつたこと、とくは調停成立後控訴人からの損害金の支払状況も知らず控訴人から損害金を受領したのも右が初めてであつてこのような金員を受領する権限を有しなかつたばかりでなく右金員受領の翌日これを控訴人に返還したことが一応認められ、以上認定の事実を以てすれば、控訴人は調停調書所定の地代相当の損害金のうち、昭和三十二年九月分から同年十一月分までの三箇月分の損害金四千五百円の支払を遅滞したものと認めるのほかない。してみれば調停調書第三項の条件が成就したものというべきであるから、右条件が未だ成就しないとする控訴人の主張は採用できない。」を加える。

三、原判決の理由四枚目(記録第七十丁)表三行目から同裏一行目の「出来ないことが明となつた」までを削り、その代りに

「控訴人は(一)被控訴人が昭和三十三年十月十九日にした本件強制執行は著しい権利の濫用であり(二)市川簡易裁判所の発した執行文付与に対する異議申立に伴う執行停止決定に違反する無効の執行である、また(三)調停調書における目的土地の表示の不明確な点及び(四)調停条項第三項の条件不成就の点からみても強制執行は無効であり、控訴人は、これがため昭和三十五年四月末日まで使用する権利のある土地に対する占有を不当に奪われた、よつてこれが明渡ならびに損害賠償の請求訴訟を提起しようと準備中であると主張している。そしてこの趣旨は本件強制執行には右主張のような瑕疵があるから、これを理由として右強制執行により明渡となつた土地につき本権に基く返還請求のほか、占有回収の訴をも提起しうることを主張しているものと解されるが、控訴人主張の右(一)、(三)の理由のないことは当裁判所の引用にかかる原判決の理由説示において、同(四)の事由の理由のないことは前段においてそれぞれ説示したところにより明らかであり、また(二)の事実はこれを確認するに足りる証拠がない。のみならず、元来占有回収の訴は物の占有者が他人の私力によつて占有を奪われた場合に侵奪者からその物の返還を請求することを認めた制度であつて、私力によつてではなく、権限のある国家の執行機関の行為によつて占有が奪われたような場合には、それが外観上執行行為と認めるに足りる方式を欠く等執行行為として不成立のものと認めるべき場合でない限り、たとえその執行行為につき何らかの瑕疵があつたとしても、これによつて執行行為の無効もしくは取消を主張し又は実体上の権利に基く請求をなしうることは別として、占有回収の訴によつて、その物の返還を請求することは許されないものと解するのが相当であるところ、本件強制執行が権限ある執行機関である執行吏により執行行為として認めるに足りる方式によつて為されたものであることは控訴人の主張自体に徴しても窺われるところであり、その執行行為が不存在のものと認めるべき事情のあつたことは認められないのであるから、仮に控訴人主張のような瑕疵があつたとしても、控訴人はこれを理由として占有回収の訴を提起し得ないものというべく、被控訴人に対し占有回収の訴を提起しうることを前提とする控訴人の主張は理由がないものといわなければならない。」を加える。

よつて、控訴人の本件仮処分申請は理由がなく、これを却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

目録

船橋市本町三丁目千三百六番の十一

宅地 九十五坪三合七勺のうち

約七坪

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